morita MiW

『ゆうべ潜った話』

ゆうべ潜ったのは、たしかあの沼の底。
小さな小さなその潜水艇には、
可愛らしいこれまた小さな丸い窓。
外をそっと覗いてみるとね
少し離れたところに
まるで毛むくじゃらのワニみたいなオオカミ。
ギザギザギザの鋭い歯の間からは
ウヲヲヨヲ ウヲヲヨヲウ と
唸るような泣くような声が漏れていたのでした。

いやけれど。
ワタシが気になったことってのはね、
そんな淋しげな声ってのが
本当はナニを云いたがってるかってことでなく
ココが実は水の中なんかではなく森なんじゃないかってこと。
ワタシが来たかった場処が
まるっきり見当違いの場処だったんだってこと。
棲んでるドウブツも生えてるショクブツも
ナニからナニまで見当違い。

そのオオカミみたいなワニみたいなオオカミを
暫くの間ワタシは唖然と眺め、
やがて少しずつではあるけれど
ココが森だったんだと認識し直すことにした頃には
ほんのりと空が白み始めていました。

いつの間にか唸るのをやめ、
ワタシの方をチラと振り見たオオカミに
ようやくワタシは無性に話しかけたくなりました。

窓を開け、ヲヲイ ヨロシク ヲヲイ。