『あの冬の森のちっぽけ』
あの冬の森。
樹々にはただただ深々と、雪が降り積もっていくのでした。
そこに転がっていたその時計。
寒さのあまり針はすっかり凍りつき
音も辞め、時も辞め。
懐かしい記憶も希望も
灰色の景色の中で
まるで動かなくなってしまったようでした。
その時計の箱の中。
そっと覗いてみたのは昨日の朝のこと。
たっぷり眠ってすっかり疲れも癒えた朝のこと。
そこにはね、
スイィスイィと眠るちっぽけ。
ちっぽけは何故か卵をね
ダイジにダイジに抱いておりました。
時々卵に頬ずりしたり耳を澄ませたり。
コロリと少しずらしてみては
抱きかかえてまた眠りにつくのでした。
何時間も何時間も何時間も
ワタシはただそんなちっぽけを
眺めて過ごしておりました。
寒さなどね、すっかり忘れて。
この冬の森。
今日もまだ樹々は凍りつき、雪は降り積もっているけれど。
あのちっぽけが抱いていた「その時」の卵。
きっと孵る日は近いのでしょう。
音が始まる。時が始まる。
ワタシは優しい気持ちで、ふいと空を見上げました。